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シンガーソングライターの吉澤嘉代子が2024年1月に最新EP『若草』を引っ提げた6都市7公演の全国ツアー《吉澤嘉代子 Live House Tour “若草”》を開催した。ファイナルである2024年1月25日(木)福岡 BEAT STATION公演の模様をレポートする。
2023年11月に発表したEP『若草』は青春をテーマにした二部作のひとつ。そのため、今回のツアーも青春を追体験できるような演出が凝らされていた。まず、バンドメンバーは弓木英梨乃(Gt)、澤村一平(Dr/SANABAGUN.)、山本連(Ba/LAGHEADS)、大樋祐大(Key/SANABAGUN.)と、全員が吉澤と同じ90年代生まれの同世代バンド。開演前の場内BGMも、1990年代〜2000年代の名曲がピックアップされていた。
SEでジョニ・ミッチェルの「青春の光と影(Both Sides, Now)」が流れるなか5人がステージに登場し、EP収録曲「セブンティーン」の瑞々しく開放感のあるサウンドで幕を開ける。「みんな久しぶりー! ライブハウスツアー“若草”、ファイナル福岡へようこそ! それでは、始めましょうか」と「未成年の主張」の歌詞になぞって挨拶。この曲を皮切りに、「ひゅー」「恥ずかしい」といった初期から歌い続けている楽曲を披露。クラップを煽ったり拳を上げたり、曲間で「歌って歌って!」と合唱を促したり、吉澤はバンドのフロントとして精力的に会場を盛り立てていく。バンドマンとしての立ち振る舞いもツアー前半より板に付いてきており、今までとは違う姿を見せていた。
吉澤がスタンディングのライブを行うことは珍しいため、普段とは違うフロアの光景に「うわー、すし詰め状態だ!」と驚いた様子。「今回は2週間くらい『若草』を連れてツアーを廻ってきたんですけれども、本当に楽しくて。終わりたくないよって気持ちでいっぱいなんだけど、今までの楽しさはなんだったんだろうって思うくらい、今日はみんな私を楽しませてちょうだい!…こういう芸風じゃなかったけど、せっかくですので(笑)」と、はにかんだ。
サングラスを装着し、学生鞄を担いで「みんな盛り上がってるかい!? ファイナルだよ、夜露死苦!」と煽ると「ブルーベリーシガレット」へ。フロアに降りて大はしゃぎしながら観客にお菓子を配った。続いてはファンク調のナンバー「なかよしグルーヴ」。ここまで披露してきた楽曲が青春の“光”だとすれば、少女時代の仄暗い感情を歌ったこの曲は“影”の面を表した曲。バンドが奏でる厚みのあるサウンドに乗せて、吉澤が鋭いラップや感情を吐き出すような歌唱を行い、観客を圧倒した。
吉澤がテルミンやサンプラーを巧みに操った「逃飛行少女」ののち、メンバー全員でハート型の光る眼鏡を装着すると、会場に笑い混じりのざわつきが起こる。ここで披露したのはEP収録曲「ギャルになりたい」。吉澤が「ギャルになりたいかー?」とコール&レスポンスや振り付けを行い、会場の心がひとつになった。さらにエレクトロなサウンド繋がりで、ライブの定番となりつつある「鬼」をリミックスバージョンで演奏。電子音やシンセベースを用いてノリを生み出しつつ、弓木が奏でるギターや感情を滲ませた吉澤の歌で有機的なアンサンブルを作り上げていた。
ここで吉澤が黒いエレキギターを手にしながら、高校生の頃に軽音楽部の先輩から3万円で買ったギターを、ツアーのために実家から持ってきたと述べる。「私が音楽を仕事にしようと思ったのは、あるバンドがきっかけだったんです。だから、自分にとっての青春の1曲を完コピしてきました」と、サンボマスターの「青春狂騒曲」を忠実にコピー。こぶしを効かせパッションを爆発させた歌い回しや情熱的にギターをかき鳴らすさまは山口隆の姿に重なる。ゆったりと楽曲を噛み締めて聴くことが多い吉澤のファンもこれには大いに熱狂し、拳を突き上げていた。
続けて、切なさを帯びた「流星」、私立恵比寿中学に提供した楽曲のセルフカバー「曇天」、ソリッドなサウンドで魅せた「グミ」を披露し緩急をつけていく5人。過去発表したラインナップの中でも特にバンドサウンドで映える楽曲をこのセクションに持ってくることで、「青春狂騒曲」の熱を保ったまま会場の空気を見事に変えてみせた。
「今日は、高校生のときに軽音楽部の顧問で担任だった先生が来てくれてるんだ。だから緊張するけど、17歳の頃に書いて、今でも私のことを支えてくれている曲を歌います」と「泣き虫ジュゴン」を力強く歌唱。さらに「氷菓子」をEPの音源とは一味違う温かなアレンジで届けた。
ライブも終盤に差し掛かったところで「『セブンティーン』は(17歳のときに)川柳の授業で作ったんですけど、大人になった自分へのメッセージみたいで。青春なんて別にキラキラしたもんじゃないよって。そういえば幼稚園の頃も、大人になった私への言葉を心の中に残していて…子供は純粋じゃないわ!って(笑)。でも、大人になると子供も純粋に見えるし、青春もキラキラして見えるなって。今回、青春をテーマにEPを作ってそう思いました」と語る。
「今日のことも青春だったなって何年後か何十年後かに思い出すんだけど、それもまたいつか忘れちゃう。悲しいんだけど。でも、今ここにみんながいて、私が歌っているっていう事実は、ずっとずっと宇宙の片隅に残ると思います。そんな歌を歌います。今日は来てくれてありがとう」と、アコスティックギターを弾きながら「青春なんて」を歌い始める。吉澤の現在の青春観が投影されたこの曲は、EP『若草』と今回のツアーを象徴するもの。青春のまっただ中にいた頃に書いた曲と、当時を俯瞰したEP『若草』の楽曲を織り交ぜたセットリストにより、多くの人が経験するであろう青春に対する感性の変化が表現されていた。本編ラストは「夢はアパート」をファンと一緒に合唱して締めくくる。
アンコールでは、「最後だと思うとちょっと寂しくなっちゃうけど、終わりは始まりとはよく言ったものでして、次は3月20日に『六花』というEPをリリースします。自画自賛になっちゃうけど、めちゃめちゃいい! なんでこんなにいいの?というくらいのものができたんです。早く聴いてほしいな」と、青春二部作の第二弾『六花』(りっか)が完成したことを告げる。
そして今回バンドマスターを務めた弓木を呼び、椅子に腰掛けてバンドメンバーと過ごした日々について振り返る。リハーサル初日には吉澤のライブに初参加となる男性陣が苦労しながらコーラスを練習していたそうで、弓木が「合唱大会を思い出した。男子が女子に怒られるのってよくあるじゃん。あそこから青春を感じたよ」と述べた。さらに吉澤が「ブルーベリーシガレット」ではメンバーの発案でコーラスが足されたことなど、それぞれのアイデアを詰め込まれていたことを明かした。改めて吉澤は「楽しいツアーでした。毎年廻りたいくらい。また行くね」と約束し、2人で「抱きしめたいの」を演奏。きらびやかで柔らかな弓木のギターの調べに包まれた吉澤の歌が、やさしく響き渡った。
その他のメンバーも呼び込み、TBSドラマ『瓜を破る~一線を越えた、その先には』のエンディング曲として書き下ろし、1月31日にデジタルシングルとしてリリースする「涙の国」を披露。さまざまな感情の混ざり合いを爽やかながらも切ないメロディで表現した楽曲で、アンコールを終えた。しかし、止みやまない拍手に応えて本ツアー初めてのダブルアンコールへ。開演前のBGMは、それぞれが選ぶ“青春の曲”で構成されたと話し、その中の1曲であるブラックビスケッツの「Timing~タイミング~」を演奏。吉澤は飛び跳ねたり「イエー!」と声を上げたりハイテンションで、楽しさいっぱいの空気でツアーは大団円に。吉澤は「またお会いしましょう。忘れない」と今日の出来事をしっかり胸に刻んで、ステージをあとにした。
彼女自身にとって、そしてファンにとって、新しい青春の1ページを書き込んだ若草ツアー。しかし、今年デビュー10周年となる吉澤の物語はここから精力的に動いていく。公演中に告知があった通り、3月20日にはEP『六花』の発売が決定。4月には本作を携えたホールツアー《吉澤嘉代子 Hall Tour “六花”》、デビュー日である5月14日(火)には東京・LINE CUBE SHIBUYAにて単独公演《吉澤嘉代子10周年記念公演〜まだまだ魔女修行中。〜》の開催が控えている。
▼セットリスト
1.セブンティーン
2.未成年の主張
3.ひゅー
4.恥ずかしい
5.ブルーベリーシガレット
6.なかよしグルーヴ
7.逃避行少女
8.ギャルになりたい
9.鬼
10.青春狂騒曲(カバー)
11.流星
12.曇天
13.グミ
14.泣き虫ジュゴン
15.氷菓子
16.青春なんて
17.夢はアパート
En1.抱きしめたいの
En2.涙の国
▼吉澤嘉代子 Live House Tour”若草” 各サブスクリプションのプレイリスト
https://www.yoshizawakayoko.jp/news/2024012501/
文:神保未来
写真:山川哲矢
衣装:マルコ マキ
ヘアメイク:扇本尚幸