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Digital Single「うさぎのひかり」オフィシャルインタビュー

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「うさぎのひかり」にかがやく、いくつもの叶えられた夢と再会 吉澤嘉代子オフィシャルインタビュー

 

NHKの夜ドラ『いつか、無重力の宙(そら)で』の主題歌として書き下ろされた「うさぎのひかり」。プロデューサーと演出家の二人から届いた熱量のある手紙の言葉に返信するように、かつての「夢」を拾い直す大人たちの姿に寄り添う楽曲が誕生した。

現実は誰にとっても、ままならないことが多いもの。やらなければならないこと、人との関わりの難しさ、責任の重たさ……。そんな日々を送るうちに、「夢見てばかりはいられない」と、大切だったなにかを手放してしまうこともある。それでも、〈あなたの夢は叶う〉という歌詞を耳にすれば、ふと心が疼いて夜道で立ち止まってしまう。折りたたまれていたいつかの夢が、自分の胸のなかでまだ温かさを残していたことに気づく。「うさぎのひかり」はそんなふうに、夢を見たことのある人のいつかの願いをほの明るく浮かび上がらせ、一歩踏みだすための道筋を月の光のように照らす歌だ。

満を時して15年来の友人であるROTH BART BARONの三船雅也に編曲を依頼をするなど、時をこえたいくつもの夢の成就や再会の光が点滅する「うさぎのひかり」。楽曲が生まれた背景、かつての自分のように苦しみを抱えた人に音楽で伝えたいこと、大人になってからの「重力」との向き合い方、一生かけて叶えたい夢……。光という存在に気づいた瞬間、実は自分もさっきよりほんの少しひかっている。いまにもひかる準備をしている、すべてのわたしたちに。

 

闇の中で誰かの光に照らされて救われるとき、照らす側の人もまた、救われている

─「うさぎのひかり」を初めて聴いたとき、誰かから祈られるような、背中から光を照らされるような心強さを感じました。この曲はNHKの夜ドラ『いつか、無重力の宙(そら)で』の主題歌になっていますが、曲が生まれた背景を教えてください。

吉澤:NHK大阪のプロデューサーの南野彩子さんと演出の佐藤玲衣さんにお会いした際にお手紙をいただいたんです。それぞれが私の歌を聞いてくださっていたようで、お二人の目が本当にキラキラしていました。南野さんは、高校生の頃からわたしの曲を聴いてくださっていたんです。高校を卒業して、大学に入学して、社会人になって、初めて大阪に住んで……と、様々なタイミングで、「この曲を聴いてきました」ってことを話してくれました。

─人生の節目で、嘉代子さんの曲を聴いてきた方からの依頼だったんですね。

吉澤:「いつか自分でドラマをつくったときに、主題歌を依頼したいと思っていました」と書いてくださっていて。この人は、本当にずっと見てくれていた人だ、いい曲を書かねばって。わたしの曲を好きだと言ってくださっている人に、いままで書いた曲以上に好きになってもらえるといいな、そういう曲を書きたいなって思いました。

─ドラマは、高校の同級生だった30代の女性たちが再会して夢を叶えようとする話です。物語のなかだけじゃなくて、この曲にもお二人の夢が反映されているんですね。

吉澤:南野さんのお手紙に、「高校生の頃のわたしに教えてあげたい」と書かれていて。その言葉を軸にしながら、脚本も何度も読んで、返事をしたためるような気持ちで曲をつくっていきました。

─ドラマの内容はどこまで参考にしましたか?

吉澤:ドラマの展開に沿って歌詞を書いているので、物語が終わった後にまた聴いていただけたら、印象が変わるんじゃないかなと思います。歌詞は、主人公の飛鳥をいつも照らしてくれる、ひかりの視点で書きました。ドラマには4人の女性が出てくるんですけど、「ひかりは太陽」「飛鳥は月」というように、それぞれの人物にまつわる星の設定があるんです。そのなかで、みんなを明るく照らすひかりの存在に、主人公の飛鳥はいつも導かれているんですね。でも実はひかりにとっても、飛鳥ってすごく眩しい存在だったんじゃないかな? と思いました。太陽の光を受けて、月が輝いて見えるみたいに。

─「闇の中で誰かの光に照らされて救われるとき、照らす側の人もまた、救われている——。そういう歌を書きたいと思いました」というコメントとも重なる話ですね。この言葉についても教えていただけますか? 

吉澤:わたしは歌う仕事をしてるので、ファンの方からメッセージをいただくことが多いんです。その言葉がすごく自分を照らしてくれるから、そういう関係を書きたいなって。 登場人物の4人の関係性もそうだし、ドラマをつくった南野さんと佐藤さんお二人も本当に素敵なバディです。

「この人がいるから、自分は頑張れている」っていうふうに、お互いに思い合っているような関係。「うさぎのひかり」が完成してお送りしたときに、「二人で会社の隅っこで泣きました」って言ってくださって。ドラマをつくるときに、こんなに青春するんだ……! と驚きました。まるで飛鳥とひかりみたいな関係で、お二人がドラマみたいなんです。『いつか、無重力の宙で』には、そういう熱量が詰まっています。

 

大人になったから叶えられることがあると伝えたい

─このドラマに出てくるのは、押し込めていた本当の気持ちをもう一度取り出して、大人になってからまた夢を叶えようと奮闘する30代の女性たちです。「大人になった私たちが夢を見続けることはたやすくありません」とコメントにも寄せたうえで、〈いつかのわたしに伝えてあげたい あなたの夢は叶うと〉という歌詞を書いたのはなぜでしょうか。

吉澤:ひとつは、南野さんと佐藤さんが目の前で夢を叶えている姿を見たことです。これは「叶いますように」ではなく、「叶う」だと思いました。あとは……わたしはいまが一番、陽キャなんですよ。この夏も「うちの屋上から花火が見られるからおいでよ」ってスタッフを誘ったりして。ふと我にかえるとすごく楽しんでいるなと思うのですが、いま子ども時代に戻ったとしても、こんなふうにはふるまえないと思うんです。

─嘉代子さんは、自分の青春に薄暗い気持ちがあるとよく話されています。

吉澤:大人になった自分が過去に戻ればなんとかなるかな? とも考えてみたことがあるのですが、周囲の環境にどうしても影響されてしまうから、やっぱりいまみたいに自由な行動はできないと思います。でもそんな子ども時代を送った自分も、大人になったから叶えられていることがあるし、人生を楽しむことができている姿を、子どもたちにはずっと見せていきたいです。しんどいことや、我慢しなきゃいけないときは誰しもあると思うけれど、その先には楽しいことがあるかもしれないから。

─「うさぎのひかり」もそうですが、嘉代子さんのいくつかの曲には、かつての自分を迎えにいくような要素があるように思います。そのとき、「大人になれば楽しいよ」と無責任に言うのではなく、かつて苦しかった自分がいたことを否定しないところがあるというか。かつての自分たちのような人が生きていった先にある、光の気配を切実に伝えるみたいな祈りがそこにはあるように感じます。

吉澤:そうですね。置き去りにしたくないと思っています。なにかに傷ついてきた自分を、わたしが忘れてしまったらいなくなってしまうから、覚えてあげていたい。

南野さんと佐藤さんにお会いしたときに、この作品のテーマにもなっている「重力」についてお話していただいたんです。重力っていうのは重いし苦しい。でも重力がないと、人は生きられないというお話しでした。わたしは重力は、居場所に直結するものだとも思いました。居場所は自分を守ってもくれるけど、たまに重たくもなる。でも、重力がなければ生きていけない。じゃあ、重たいときにどうしたらいいか? ということに対しては、わたしも答えが出ていないのですが……。

今年の夏、すごく暑かったですよね。ちりんちりんって風鈴が鳴っているエアコンが効いた部屋で、とうもろこしを茹でて、焼いて、大好きなドラマを観ていたときに、めっっちゃ幸せって。なんだろう……自分の時間っていうんですかね。ほぼなにもしていないんだけど、でもそれがすごく幸せでした。日々のなかでそういう大切な時間を見つけながら、心を軽くしながら生きていくってことなんですかね。

 

物語のなかでは誰にでもなれるし、どこにでも行ける

─幸せなときに聴きたい嘉代子さんの曲もありますし、そういう時間に聴いている方もたくさんいると思います。そのうえで、それこそ重力じゃないですけど、「いまちょっと苦しいな」とか「あんまりうまくやれないな」という人に向けて音楽を届けたい思いもあるのではないかなと感じています。

吉澤:この上半期、すごく苦しい時間があって、柴田聡子さんの曲をずっと繰り返し聴いていました。本当に大好きなんです。そのときに切に、音楽は悲しいときに必要なんだと思いました。楽しさをさらに増すような作用はもちろんあるけど、苦しいときや悲しいときに寄り添ってくれる力が絶大です。いまはラジカセとかで音楽を流してみんなで聴くよりも、一人で聴くことがほとんどですよね。だからやっぱり、たった一人に対して向けて書くものなんだなというふうにも思って。 わたしが夏にとうもろこしを食べて幸せだったみたいに、音楽もやっぱり拠り所になるものです。そんな時間を自分もつくれたらいいなと思います。

─たった一人の誰かに伝えたいことの中身はいろいろあると思うのですが、「一人にしない」ということが思い浮かびました。「とうもろこしを一人で食べたい」というような心地よい孤独ももちろんありますが、「本当に独りぼっちにはさせない」というか。

吉澤:悩むときって、解決できないから悩むんですよね。「何回同じ話をしてるんだ?」みたいになっちゃうからもはや友達に話す段階でもなくて、ずっと同じ悩みのなかにいる、みたいな。そういうときのための音楽なのかな。それこそ自分を、平日22時過ぎから放送される夜ドラの主人公みたいにしてくれる存在があるといいですよね。

─物語の登場人物のようになれるという話で言うと、「うさぎのひかり」の2回目のサビ前の〈ゆびさきで誓うの 熱い涙よもう自由だよ 物語の中では〉という歌詞が、音の浮遊感と伸びやかさも相まって耳に残りました。嘉代子さんがこれまで大切にしてきた「物語のなかで自由になれる」というメッセージを「うさぎのひかり」にも取り入れたのはなぜですか。

吉澤:その部分から、「現実ではなくなってる」「ここから無重力につながっていく」という心象風景のようなイメージでつくっているんです。物語はやっぱり、願いだから。現実にはままならないことがたくさんありますけど、物語のなかでは誰にでもなれるし、どこにでも行ける。わたしはそうやって何度も物語に助けられてきたので、この曲にも書きました。

 

おばあちゃんになっても歌い続けたいという夢

─「うさぎのひかり」の鍵になっている「夢」も、自分が夢を描かなければ、かたちになりようもないものです。そう考えると夢を見ることは、自分の物語を書き始めることだし、ひいては物語を生きることだと言ってもいいんじゃないかと、話をうかがいながら思いました。編曲の話に移れたらと思うのですが、今回、ROTH BART BARONの三船雅也さんに依頼した理由は?

吉澤:ROTH BART BARONは、デビュー前からの15年来の一番古い音楽仲間の一人です。ずっと大好きなバンドなんですけど、当時から音楽のジャンルが違うんだろうなと思っていて、ご一緒する機会もありませんでした。三船さんのつくる曲は、絵本のようなドキュメンタリーのような、すごく美しくて恐ろしいもの。最近の楽曲は、現実を見据えながらも光がさしているようにも感じられて、それがすごくやさしくて、本当にいいんです。三船さんの人柄の素晴らしさが表れてるようで。だからこそみんな三船さんの周りに集まって自由に楽しく演奏しているし、コミュニティが生まれているんですよね。いまのROTH BART BARONの音楽のなかに、この曲で自分も入りたいなと思いました。「お互いまだ性懲りもなく歌ってるね」っていう、再会でもあります。

─ここにも再会のエピソードや、時間を経た夢があるんですね。ホーンなどの管楽器が入っているのも新鮮で、スケール感がこの曲によく似合っていました。編曲はどんなやりとりを重ねましたか?

吉澤:初めてのやり方だったのですが、わたしのギターを三船さんが弾いて、その場で「こうしたい、ああしたい」と希望を伝えながら録音してベーシックをつくっていきました。普段はデモをやりとりすることが多いのですが、三船さんとの関係性もあって、最初にすり合わせてできたのはすごくよかったです。

─MVを担当した石田清志郎監督とは初めてご一緒したとうかがっています。「ここはどこなんだろう?」という浮遊感や、誰のなかにもある一瞬の美しい横顔のようなものが、静けさのなかに宿っているのが印象的でした。

吉澤:石田清志郎監督は、人の表情を撮るのがすごく上手だなと思っていて。編曲も自分のなかでは新しいものになったので、MVもこれまでとはまた違うものをつくりたいと思ってお願いしました。歌詞のところでお話ししたような、太陽と月の関係を伝えたら、石田監督から「太陽と月の役割を演じてくれる少女たちに参加してもらうのはどうですか?」と提案いただいて、西川玲さんと佐藤瑠海さんという11歳と10歳のお二人に出演いただきました。あとは移動式プラネタリウム! 学校の体育館のなかで投影して、解説員の方に説明してもらったのですが、星がアイスクリームに見えたりして楽しかったです。

─ジャケットはbeco+81さんによる描き下ろしですね。

吉澤:わたしもスタッフも前からファンだったんです。「うさぎのひかり」という曲名に決まってから、うさぎのイラストがかわいくて印象的なbeco+81さんにお願いしました。

─「うさぎのひかり」の始まりが、熱量のある手紙だったこともあるかもしれませんが、編曲もMVもジャケットも、嘉代子さんの好きな人たちとつくりあげたんですね。自分の心をこれまで助けてくれた人やものたちを大事にし続けるというのは、すごく嘉代子さんらしいとも思います。最後に、10月から始まる「歌う星ツアー」についても教えてください。「うさぎのひかり」とも重なるツアータイトルですね。

吉澤:「うさぎのひかり」を連れてのツアーになることは決まっていたので、すべてを捧げたいと思っていました。「歌う星ツアー」という名前を考えたときは、まだ曲名は決まっていなかったのですが、星にまつわる言葉にしたいなと思っていて。去年デビュー10周年を迎えて、さまざまな編成でツアーをおこなったんですけど、いろいろな人と一緒に歌うことによって、自分の歌が磨かれていったような感覚がありました。いま一番、歌うのが楽しいっていうフェーズに入っていて、「自分が生まれたのが、歌う星だったらいいな。歌う星のもとに生まれていたらいいな」と思ったんです。

ドラマには4人の女性が出てくるので、4人のバンドメンバー(ギター弓木英梨乃さん、ベース関根史織さん、ドラムYUNAさん)でまわります。ビジュアルは、かわいい女の子を描くならたなかみさきさんしかいない! と思って、依頼しました。

─「いま一番、歌うのが楽しい」という言葉がありましたが、改めていまの嘉代子さんにとって歌うこととはなにか、そして「歌う星ツアー」をどんな時間にしていきたいですか。

吉澤:わたしにとって、自分を唯一許せたり、愛せたりできそうだなって思う手がかりが、歌うこと。それが仕事にできていて、本当にラッキーだと思っています。おばあちゃんになっても歌い続けたいっていうのが、わたしの夢です。バンドメンバーは本当にみんないい人たちなので、ステージも、ステージ以外も絶対に楽しい時間になるはず。仲良くなりたいなあ。そんなごほうびのようなツアーになるんじゃないかなと思っています。

インタビュー・テキスト:野村由芽(me and you)

 

2025年9月17日(水) Release
Digital Single「うさぎのひかり」
https://jvcmusic.lnk.to/Usagi_no_hikari

ミュージックビデオ
https://youtu.be/bwjvrRSQiwU